motowakaの備忘録

毎度ご無沙汰いたしております

米田昌功 はじまりの場所(ギャラリーNOW)

今日は米田昌功さんの個展*1を見ました。展評ではなく、書きなぐりの感想メモのようなものですが、印象を記しておきます。 

米田さんは、富山の現代作家。立山曼荼羅のような独特の日本画を描くかたです。もう7年ほども前になりますが、「公募:日本海美術展」(富山県立近代美術館)という展覧会で大賞を受賞し、注目されるようになりました。同館での企画展「こころの原風景」などでも活躍し、県内期待の若手作家の一人と言ってもいいでしょう。
今回の個展は、文化庁の芸術家派遣で一年間、ネパールに滞在してきた米田さんの、帰国記念展ということで、現地で描いた作品と、帰国後4ヶ月の間に描いた新作が展示されていました。

ネパールでの仏教伝統絵画の研修を終えて、はや四ヶ月がたった。
人々が生きる姿をこれほど凝視した一年はあるまい。
かけがえのない経験であった。
あの「時」を思い出しつつ筆をとる今、記憶の中の異国が改めて教えてくれる。
人の闇や光を。
見えない世界と見える世界の狭間にこそ美が生まれることを。
そして、自分が立つ場所こそがいつも、はじまりの場所であったことを。
米田昌功*2

ネパールの曼荼羅は、チベットのそれほど知られてはいないが、インドから仏教徒が追われた際に、多くの人々が逃れたのがネパールであり、仏教の源流のようなものはむしろネパールに残されている、といったような話を米田さんは聞かせてくれました。(また、多くの優れた曼荼羅は国外に持ち去られてしまい、実のところ現地で曼荼羅を学んでいる画家たちも、自国の古典的名作を見る際にはアメリカの博物館へ見に行かねばならない、といったような少し笑えない話も。)
米田さんは曼荼羅にインスパイアされた作品を描いてきましたが、ネパールでの制作は、これまでやってきたこととは異質であり、そこから学んだことは大きかったと。彼は養護学校の教員という厳しい仕事の傍らで作品制作をしているのですが、ネパールでは朝から晩まで制作三昧。それはいいのですが、極めて細密な図像を何日も何日もかけてひたすら描き続ける。一年の滞在で、わずか数枚の曼荼羅しか仕上がらなかったと語っておられました。
「小乗ですね」と私が言って、すぐに意が通じたのが私には嬉しかった。人からどう見られるかなどは関係なく、ひたすら描くことに徹するのは、小乗仏教の教えに通じるのではないかと思ったのです。そして、そこに米田さんの戸惑いもあったのではないかと感じたのは、それほど的外れではなかったようです。
画家として、自分の内面にあることをひたすら画面に描きつける小乗的な方法論も、ひとつの立派なやり方です。しかし米田さんという人は、そうしたものに徹するのには優しい人過ぎる、私にはそういう印象がありました。
現地でネパールの(ごわごわした)紙に描いたという大作は、今までの彼にはない様式で、大変見ごたえのあるものでした。一方、留学以前の方法論を継続した様式の作品には、かの地で米田さんが感じた動揺がビビッドに反映されていて、見ていて少し胸が苦しくなるほどでした。
帰国後の新作は、明らかにこれまでの彼の作品とは異質の要素が反映され始めていると感じられるものたちでした。かつては画面を記号のようなイメージで埋め尽くそうとする意識が強く見られながら、「絵」としての質のようなものとの対立が強かったように思われます。ネパールで彼がひたすら細密に描き尽くそうとする表現と向き合った中で、帰国後の表現がむしろ質のようなもののほうへの関心を強く示していたように思われたことは、とても興味深いものでした。(「前には“一輪の花”なんて、気恥ずかしくて描けなかったんですけどね」という言葉の意味は、私にはよく分かった気がしました。)
今日、言いそびれてしまったんだけど、でも、まだ少し「余白が怖い」感じがあるのでしょうか。画面のあちこちに描き込まれた白い四角形などは、少し恣意的に置かれたもののような気がしました(あるいは光背のような光の表現も)。あれを画面の「質」に置き換えていくためにはどうすればいいのか。たとえば(工芸的ではあるけど)箔を置いてみるような表現などは、試してみる価値はないだろうか。そんな話がしたかったんですけど、今日はお客さんが多くて主人公は大変そうでしたね。
個人的な話ですが、自分とほぼ同年代の米田さんががんばっているのを見ると嬉しくなります。「40歳前後というのは、自分を大きく揺り動かしてみる最後のチャンスかもしれないですね」と語り合えたこともいい体験でした。自分自身の内面を凝視する体験を経て、ふたたび「なまの人間」と日々向き合う生活の中に戻ってきた米田さん。今後の展開に大いに期待できる作家だと確信を持っています。*3

*1:06.12.9[土] - 12.17[日]

*2:個展案内状より

*3:手短に感想メモをと思ったのに、すっかり長くなってしまいました。